本感想

変態ドM女の心理学『O嬢の物語』感想

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約20日ぶり、久々の更新になってしまいました。
ほんとはこの間にも書きたい記事のネタがいくつかあったのですが、私生活で色々ゴタゴタしていまして、まことままならぬ事ばかりな世の中です。
やっとこさ足元が落ち着き始めたので、今回はつい昨日読み終えたばかりの小説について普段の如く雑感をしたためて行こうかと思います。

『O嬢の物語』ポーリーヌ・レアージュ

本書の翻訳をしている澁澤龍彦さんに興味があったことから手に取った一冊。
澁澤さんに関しては随分前にジャン・コクトーの『ポトマック』や『大胯びらき』の翻訳を読んだことから知りました。
なんとなぁ~く「フランス文学に精通していて、小説やら評論で活躍されていた人」ぐらいのホワッとした認識しか持っていないのですが、本書をブックオフの百円棚で見つけ手に取ってビックリ!
表紙がね↓

めっちゃ肌色やん‥‥(赤面)

この表紙は『ガブリエル・デストレとその妹』という色々と謎めいている絵画(の一部拡大)です。
フランス国王アンリ4世の愛人、ガブリエル・デストレに乳首をつままれている絵面、まぁ何やら暗喩が含まれているらしいのですが無知な私にはち、乳首だぁー!という小学生並みの感想しか出てきませんでした。
もちろん即お買い上げ。決め手は乳首
も、もちろん澁澤さんに対する興味もあったんだけどねッ!

あらすじ
女流ファッション写真家のOは、ある日恋人ルネに連れられてロワッシーのとある城館を訪れる。
彼女はそこで複数の男の共有性的玩弄物(いうなれば性奴隷)となるよう、鞭打やその他肉体を蹂躙する手段をもって心身共に調教される。
一ヶ月ほど後、城館を後にしたOは、ルネからステファン卿なる人物を紹介され、卿の求めに従ってルネから卿に譲り渡される。
ルネとステファン卿はOの仕事仲間のファッションモデル、ジャクリーヌにも目をつけ、ロワッシーに連れてゆくためOに画策させる。
二人の求めに応じてOはジャクリーヌと親密な関係になりルームシェアを始めるが、恋人ルネの心が段々と自分からジャクリーヌへと移っていくのを感じる。
一方でステファン卿の持ち物となった日からOは凌辱と鞭打とを繰り返されるにつれ、卿が自分に対して愛情を抱き始めていることに気付く。
今度はステファン卿に連れられてファンテンブローにある館に入れられたOはアンヌ・マリーという女主人から調教を受ける。
さらに卿の持ち物である証として尻に烙印を押され、性器に鉄の輪と鎖を付けられる。
そしてある夜会で、梟の仮面を被せられ、陰部を脱毛されたOは衆目に晒されることになる。

ナボコフの『ロリータ』やバタイユの『眼球譚』などなど、エロチック文学は何冊か読んできたのですが、その中でも一等エロかった!

読みながら…その…

下品なんですが……

勃起……しちゃいましてね……

少なくとも通勤通学の電車の中で気軽に読むのはオススメできません!

1954年の出版当時もその過激な内容でセンセーショナルな話題になり、偽名著者正体不明という事から色んな憶測も飛び交った作品らしいです。
現在ではドミニク・オーリーという女性ジャーナリストが作者であることが分かっていますが、当時は彼女の恋人であり本書に序文を付けていたジャン・ポーランが作者ではないかと考えられていたようです。
さらに1959年には政府当局が出版者と謎の著者をわいせつ容疑で告発し、裁判の結果「広告禁止」と「未成年への販売規制」が課せられたというのだから驚き。
まぁ何かと曰く付きの本なんですよね、少なくとも「乳首ーッ!」つって気軽に手に取って良い本じゃない(反省)
そんな本の紹介記事を載せたらアドセンス外されないか心配ですが……
でもほら……文学賞とか取ってるから……高尚な文学だからッ!

物語は主人公O嬢の視点で語られます。
調教を経ていくにしたがって心境に変化が生じていくのが読んでいて面白かったです。
とくにルネに対する想いが段々と移ろっていき、最終的には「あれ……コイツって私にとって何だっけ……?」となる所はある意味ゾッとするものがあります。
ルネという男がNTR的な性癖をお持ちであることはさて置いといて、O嬢も最初は「愛するルネが求めることだから……」という気持ちゆえに他の男からの辱めや調教を甘んじて受けていたはずなんです。
ルネ叔父にあたるステファン卿に譲られるときも「愛するルネがそう望むのなら……」という気持ちがあったからこそ求めに従っていたはずなんです。
たとえそんな理由があったところで、他の男に股を開くなよっていうツッコミはあるでしょうが、そこはそれ、元々O嬢にも素質があったということでしょう。
作中でも語られてましたがO嬢としては、たとえ他の男と身体を重ねようと、あくまでその男を通してルネ一人に仕えているつもりでいたんです。
いたはず……なんだけど……ッ

わたしのあれほど恐れていた日、ルネにとって、わたしが過去の生活の影でしかなくなる日が、とうとうやって来たのだわ。でも、わたしはそれを悲しいとも思わず、ただ彼が気の毒なばかりで、こうして毎日、彼がわたしを求めないからといって、べつに傷つきもせず、苦しみもせず、悔恨の念もなしに彼をながめていられる。

男の恋は別名保存、女の恋は上書き保存、とはよく言ったもので、まさにO嬢の心境が上書き保存される出来事がこの直前にあったわけです。
ステファン卿によって彼の所有物であることの証として尻に焼鏝を捺され、陰唇に鉄環名前入りプレートをぶら下げられるわけです。

――ステファン卿とくらべた場合、ルネはいったい何だったのだろうか。干し草の縄、藁の網、コルクの球――比喩的にいえば、ルネが彼女をつなぎ止めておくために用いた鎖は、要するにこんなものだったのであり、まことに脆弱なものだったのである。それにひきかえ、この肉を貫いてたえず重たくぶら下がっている鉄環や、二度と消すことのできない烙印や、岩のベッドに彼女を押し倒す主人の手や、情け容赦もなく自分の快楽を汲み取るすべを心得ている主人の愛は、なんという安らぎであり、なんという歓喜の源であったことか。

これではどうやらステファン卿が並々ならぬ所有欲の持ち主だったということ以上に、O嬢が異常なほどの被所有欲を身の内に宿していたと考えた方が納得である。
ナチュラル・ボーン・ドMである。

最後にはO嬢がフクロウの仮面を付け、陰部の鉄環にをつながれ、ステファン卿にブルジョワの集う夜会に連れてかれる。
そこで紳士淑女たちの見世物になって本編は終わるのだが、実は削除された最終章があるらしい。
この後、O嬢はステファン卿に連れられて再度ロワッシーの城館を訪れ、そこで卿に捨てられる
O嬢は卿の同意を得て死ぬことにした。

――fin.

 

え……えぇ……(困惑)

まぁ、自分自身が所有しているもの――物質的にはもちろん、行動や発言の自由権利まで――すべてを放棄してきたO嬢の「被所有欲」の行きつく先は、究極的には自身の肉体の放棄であり、焼鏝や鉄環を付けられた時点でもう既にその領域に片足突っ込んでいたと言えなくもないのでしょう。
ある意味でO嬢は自身の願望を叶えたとも言えるので、これはハッピーエンドなのか……?

奴隷状態における幸福――マゾヒストの内面に深く潜り込んで、その心理を哲学する一冊。
自分が自覚が無い人は是非読んで、自分の性癖を確認してみてください。

O嬢とジャクリーヌの百合描写もあるよ

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