本感想

彼女の幸せは砒素の味『ずっとお城で暮らしてる』感想

投稿日:

ここ最近、東京創元社からシャーリイ・ジャクスンの翻訳本が新たに2冊ほど出て、書店に行くと結構な割合で平積みされており、なかなかオサレなカヴァーデザインも相まってずっと気になっていた。
とりわけ本書ずっとお城で暮らしてるは邦題タイトルのインパクトも強く、私の中では長年「あー知ってる知ってる、タイトルだけは知ってるー」的な本だった。
読み始める前は何の前知識も無くタイトルだけの印象で「きっとこう……なんかフワフワした、女子とかが好きそうなさー、詩的お耽美な文学なんだろうなぁー……マンスフィールドみたいな(適当)」って予想をしていました。
結果、当たらずとも遠からずでした!
正しくは、上の予想に+ホラー・サスペンス要素って感じでした。

一応恐怖小説って分類になるのでしょうけれど、別にお化けが出てきたりはしないし、グロい描写などもありません。
誰しもが少なからず身の内に隠し持っている「狂暴性」や「陰湿さ」をネットリと描くような作品です。
あー嫌だぁー……こんなの読みたくないぃー……」と言いながら目を覆うのだけれど、言葉とは裏腹に指の隙間からチラチラ覗きみてしまうような、妙に惹きつけられてしまう物語。
含蓄の無い例えで恐縮ですがゆるふわケッチャムって感じでしょうか。
巻末の桜庭一樹執筆の解説によるとスティーブン・キングも本作を絶賛したそうで、確かに本作の主人公メリキャットは可愛らしいアニー・ウィルクスって感じがしなくもない。もちろん手斧で両足切断したりしないけど。

18歳の少女メアリ・キャサリン・ブラックウッド(通称メリキャット)は姉のコンスタンス、叔父のジュリアン、飼い猫のジョナスと共に町はずれの立派なお屋敷で暮らしている。
メリキャットが12歳の頃、メリキャットの両親・弟・叔母が一家団欒の夕食で「砒素入り砂糖」によって毒殺される事件があった。
その時メリキャットは父に悪さを叱られ夕食抜で自室に追いやられていたので食事の席にはいなかった。
コンスタンスは食事の席にいたが、料理に砂糖をかけない性分なので毒殺を免れた。
ジュリアンは砒素を口にしたが何とか一命は取り止め、今は肉体的にも精神的にも後遺症を抱え車椅子で生活している。
当時の捜査当局はコンスタンスが料理の支度をしたこと、警察の到着前に砒素の入っていたシュガーボウルを流しで洗ったこと、食卓にいた者の中で唯一砒素を口にせず無事だったこと等からコンスタンスを逮捕し、家族殺しの事件としてセンセーショナルなニュースになった。
裁判では証拠不十分として無罪放免となったが、世間からの疑惑は未だ根強く、コンスタンスは非難の眼を避けるようにお屋敷の中に引きこもって生活している。
外に出れない姉の代わりにメリキャットが町へ食料品などを買い出しに出かけると、住人達が「メリキャット お茶でもいかがと コニー姉さん」「とんでもない 毒入りでしょうと メリキャット」と悪意込めた歌で囃し立ててくる。
メリキャットはお屋敷の周囲の木に死んだ父の本を釘打ちしたり、ドル銀貨を地面に埋めたりして、姉を外敵から守るためのおまじないを施す。
悪意に満ちた下界に背を向け、空想が彩る閉じた世界で過ごす幸せな日々は従兄チャールズの突然の来訪によって一変していく――

メリキャットは設定上18なんですが、話し言葉や思考、行動が凄く幼い
おそらく事件のあった日から彼女の精神年齢は12歳で止まってしまったのだろう。
彼女に教育を施す両親がいなくなり、学校にも通わず、姉のコンスタンスもメリキャットを甘やかしてばかりだから尚更だ。
得てして幼い子供というのは純朴な瞳をしながらギョッとするほど残酷なことをやってのけたりする。
皆さんも多少身に覚えがあるでしょう――蟻を踏みつぶしたり、ミミズをぶつ切りにしたり。
その程度であればまだ可愛げがある方だと、本作を読んだ後では心底そう思います。
最初の内はメリキャットの年齢に見合わない幼さを可愛らしく感じるかもしれませんが、読んでいる内にだんだんと怖くなってくるんです。

メリキャットが食料品を買いに町に出ると住人たちは彼女を遠巻きに見つめヒソヒソ陰口を交わす。
不躾な視線にさらされながら彼女は住民たちがみんな死んじゃえばいいのにと内心願う。
私も日常生活の中で気に食わない人間や嫌いな相手に対して内心で死を願ったりすることがありますが、決まって直後にそんな腹黒い感情を抱いた自身の浅ましさを恥じたり、人知れず気まずく思ったりするんですよ。
しかしメリキャットにはやましい気持ちは少しも起こらない、本気で純粋に彼らの死を願うんです。
善悪の判断が未発達というか、道徳観念が欠如している。
ある意味で本作を恐怖小説たらしめているモンスターはこの18歳の少女なんです。
読み返してみるとチャールズなんて無害な一般人も良いところですよ。
メリキャットに部屋をメチャクチャにされた後、言い争いの末にチャールズが放つ台詞コンスタンス、ここは精神病院だよには今となっては全力で同感です!
お前って案外良いヤツだったかもな、チャールズ……。

おそらくですが、姉のコンスタンスも、ジュリアン叔父さんも、従兄チャールズも、町の住人達も、意識の深いところでメリキャットに恐怖を感じているような気がします。
だからコンスタンスはメリキャットを許す

だからジュリアンはメリキャットを避ける

だからチャールズはメリキャットを排除しようとする。

だから町の住民はメリキャットを忌み嫌う

そんな私の考えを見透かすかのようにラストの会話でメリキャットはこう言います。
かわいそうな、知らない人たち」「いろんなことをこわがらなくちゃいけないのね

一篇の曇りもない眼差しで満面の笑顔を湛えながらアイスピック片手に女の子が追いかけてくる感覚。
……コ、怖っ((;゜Д゜)
この感覚を未読の人に言葉で伝えるのは無理だ!
だから読んで!

読後にふと、テリー・ギリアム監督のローズ・イン・タイドランドという映画を思い出しました。
物語の構造やキャラクターも少し似ている部分ある気がします。
純粋さも度が過ぎれば狂気なんだなぁ……

大好きなメアリ・キャサリンに、みんなで頭を下げるんだ

スポンサーリンク

-本感想
-, , , ,

執筆者:

関連記事

ループをかちぬくぞ!漫画『盆の国』感想

最近歳のせいか10巻も20巻も続くような漫画を追いかけ続ける気力が無くなってきている私です。 10代の頃は何十巻でも嬉々として夢中で追いかけ続けられたのにね‥‥。 ところで『はじめの一歩』は今どうなっ …

ホラー?SF?寓話?評論?『ポオ小説全集1』感想

エドガー・アラン・ポーを初めて真面目に読みました。 本作を手に取るまでは精々が「江戸川乱歩の名前のネタ元でしょ」ぐらいの認識で、本作には収録されてませんが短編の『黒猫』だけ青空文庫でサラッと読んだこと …

元祖ファム・ファタル文学『マノン・レスコー』感想

昨今の画一的な萌えコンテンツに食傷気味のあなた。 連綿と続いてきた人類による創作を今こそ遡り、いっそのこと古典をあたってみるのはいかがでしょうか。 ということで本日は18世紀フランスの作家アベ・プレヴ …

大人になって読む童話『長靴をはいた猫』

今回読んだのはシャルル・ペローの童話集『長靴をはいた猫』であります。 前回に続き澁澤龍彦さんの翻訳本、そして河出文庫。 アイ・ラブ・河出文庫。 シャルル・ペローは17世紀のフランスの詩人。 思想や文芸 …

ニヤニヤ不可避漫画『塩田先生と雨井ちゃん』感想

短い漫画が読みたい。 というか、長い漫画を読む気力が無い。 そんなことを以前の記事で書きました。 今回扱う『塩田先生と雨井ちゃん』はこんな私の億劫な要望にもピッタリだった一冊でありました。 著者は【な …