映画感想

ビン・ラディンを消した女性捜査官映画『ゼロ・ダーク・サーティー』感想

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キャスリン・ビグロー監督による、ウサマ・ビン・ラディン殺害の裏で活躍した実在の女性CIA局員を描いた作品ゼロ・ダーク・ダーティーを観ました。
同監督の前作『ハート・ロッカー』も面白かったので大した前情報も無しに観始めてしまったのですが、ちょっと想定以上に重い内容で鑑賞後に頭を抱えてしまいました。
作品内の情報量が超多いのでストーリーを追うだけで精一杯、こんなのどう感想書けばいいのやら‥‥
正直せせこましい政治の話題も含んでくるのでブログで扱うのやめようかなぁとも思ったのですが、個人的な備忘録も含め観て思った通りのことを書いてみます。
あらすじは簡単――

女性CIA局員がビン・ラディンを見つけるために奮闘する話。

――以上!
いや、ふざけてませんよ。マジでこういう話としか説明のしようがないんです。
本編冒頭に「関係者の証言を元に製作~」と字幕が入るように、ビン・ラディン殺害までのCIA内の動きをリアルに描いた作品って感じです。
しかしドキュメンタリーというわけではなく、公開情報や証言を元に創作した部分が大いにあるそうです。
ビン・ラディンを追っていたのが女性捜査官だというのは実話らしいですが。
以下ネタバレ込みで内容を追いつつ感想を――。

物語は2001年9.11テロの描写から始まります。
その2年後、パキスタンはイスラマバードに置かれたCIAの現地捜査チームに新入りとしてやってくる主人公マヤ
上司のダニエルと共にテロ実行を支援したと思しき運び屋の男の尋問に参加します。
この尋問というか拷問のシーンは中々良くできていたなぁと思いますが、実際にはもっと惨たらしいこともしていたんじゃないだろうかとも訝ってしまいますね。
やはり水責め程度じゃ情報は吐いてくれないもんで、そこは爪の一つでも剥いで行こうぜ!とツッコミも入れつつ――。

確たる情報を得られないまま2004年5月29日サウジアラビアのアル・コバールで非アラブ系を狙った銃乱射テロ事件が起こってしまう。
この事件を受けてダニエルは運び屋の男をさらに拷問して何としてでも情報を吐かせようとしますが、マヤが奇策を提案し運び屋を騙すことで新たな情報を得ます。
運び屋の男がビン・ラディンと直下の部下アブ・ファラジの間で連絡係を務めているらしき男がアブ・アフメドという名だと白状する。

その間にもアルカイダによって2005年7月ロンドンの地下鉄やバスが爆破されるテロ事件が発生。
実行を指揮したアブ・ファラジが逮捕されるが、マヤの上司ダニエルは終わりの見えない捜査に疲弊し本国へ異動することを決める。
一緒にアメリカに戻って自分の元で本部のお役所仕事をするかと誘うダニエルにマヤが「ワシントンにアブ・アフメドはいない」と言って断るところが印象的。

そもそもこのマヤという女性局員は登場から新人とは思えないぐらい肝が据わっていた。
初見では勘違いしていて、最初の拷問シーンとかも口を押えて目を逸らしたりしてたので「やはり女性には厳しい仕事なんだなぁ」なんて思ってしまっていたが、観返すと別にそんな乙女な思考で目を逸らしたわけじゃなさそう。
むしろ拷問をやめて小休止入れようとしてるダニエルに対して「休んでないで拷問を続けないと」と言ったり、言い方は悪いけどちょっと頭オカシイぞこの女!?っていう描写に見えてくる。

閑話休題。
ダニエルが異動した後、2008年9月20日パキスタンのイスラマバードにある現地欧米人に人気が高かったマリオットホテル爆弾テロを受け、偶然同僚のCIA局員ジェシカと夕食の待ち合わせをしていたマヤも巻き込まれる。
幸いにも大した被害は受けなかったマヤとジェシカだがアルカイダの暴走を一向に止められないCIAの無力さが伝わってくる。
この頃にはCIA職員によるアルカイダ捕虜に対する拷問が非人道的だと言う非難が国内外でも強くなり、捕虜から情報を得ることも難しくなってきた。

まさに八方塞がりな状況のCIAにヨルダンの局員が1年かけて関係構築したアルカイダ内で医者をしているバラウィーという男の情報が舞い込む。
今はまだアルカイダ幹部に接触できる地位にいないが医者の数は限られているしいずれビン・ラディンと接触する機会も高いと踏み、バラウィーを今のうちに懐柔しCIAのスパイにする作戦が持ち上がる。
同僚のジェシカはバラウィーに作戦協力を持ちかけるためアフガニスタンの米軍基地で会合を開くが、現場に現れたバラウィーは体に爆弾を仕込んでいて、付近にいたジェシカを始めとした多数の米軍人が犠牲となる。

ジェシカの死に悲嘆に暮れるマヤの元に長年追っていたアブ・アフメドすでに死んでいたという情報が舞い込む。
捕虜の一人がアブ・アフメドの写真を見て証言するに、2001年に自身の手で埋葬したとのこと。
弱り目に祟り目としか言えない状況のマヤ。
アルカイダを追うCIAチームも今や数えるほどの人員しかいなくなる。
犠牲者を出しながらも何の成果もあげられないで莫大な予算だけを食いつぶしていると上層部からは叱責される現場。

今までのデータを洗い直していた局員の一人が9.11直後にモロッコが作成した要注意人物リストの中にアブ・アフメドが入っていたが人為的ミスで見落とされていたことを報告する。
そこからアブ・アフメドの本名がイブラヒム・サイードであることが判明するが彼が既に死亡していることを理由に今となっては無意味な情報だと切り捨てかけるマヤ。
しかしサイードに7人もの兄弟がいるという情報から埋葬されたのは兄弟の誰かでサイード本人はまだ生きているかもしれないと考え、現在CIA本部に勤務している元上司ダニエルにその線での操作協力を要請する。
ダニエルは上司から予算を引き出し、クウェートの現地人協力者にランボルギーニを買い与えてサイードの母親電話番号を探らせる。

サイードの母親の電話番号を入手したCIA、電話の監視傍受を始める。
母親の元にはサイードから不定期に連絡が入るが、発信元がバラバラで居場所の特定は難航する。
中東では電話屋さんみたいなお店があるというのもこの映画で初めて知った。
店の中にパーティションで区切られた電話室が沢山ある様子な中々奇妙だが日本で言うインターネットカフェみたいな感じなのだろう。

そうこうしている内に2010年5月10日NYタイムズスクエア爆弾テロ未遂事件が起きる。
マヤはサイードの通話監視人員を強化するようパキスタン支局長ブラッドリーに直訴するが、マヤが今だに7年前の不確かな情報を元にアブ・アフメドなどという生きているか死んでいるかも確かでない人物を追っていることを非難する。
NYが狙われ始めた今、そんなことより次のテロを阻止するために米国内のテロリストを洗い出せと主張する支局長に対し、アルカイダのテロを止めるにはビン・ラディンを捕らえるしかないそのために重要人物であるアブ・アフメドを特定することが必要だと啖呵を切るマヤ。
この支局長との対立で見られるマヤの執念が凄まじい。
きっとマヤがこれほどまでに熱を上げてアルカイダを追うのは職責愛国心というのもあるかもしれないが、それ以上にジェシカの弔い合戦という側面が強いのだろう。

その後、サイードが新たに携帯電話を購入したことが判明し、捜査範囲をある程度絞り込まれていく。
他方、米軍の空爆被害者が法廷でブラッドリー支局長の本名を明かしてしまったことがきっかけでパキスタン米国大使館前デモが起こり、ブラッドリー支局長への殺害予告も多発するなど身の危険もあることから支局長の任を解かれる
これってマヤの策略だったりするんだろうか、その辺は濁されてて真実はわからないんですけども。
サイード捜索の方は足を使った地道な捜索活動が功を奏してサイード本人を特定する。
新支局長はブラッドリーからマヤには逆らうなと引き継ぎを受けているらしくサイード尾行のための増員要請も難なく通る。
とんとん拍子かと思いきや、マヤ本人もイスラム過激派の標的リストに載っているようで、パキスタンの自宅を銃撃され危険な目にあい、現場を離れ本国へ戻るよう上司に指示される。

マヤが本国CIA本部に戻った後にサイード尾行の結果、彼がアボッターバードにある豪邸に暮らしていることが判明する。
この豪邸は奇妙なことに周囲は高さ5mの塀で囲まれ、窓も全て目隠し、上空からも内部を伺うことは一切できないという要塞のような建物で俄然怪しい匂いがプンプンする。
CIA長官まで話を持っていくが、屋敷内に誰がいるのか本当にアルカイダに関係ある人物なのか等の不確定な情報なため屋敷の監視以上の対応を取れない。
監視を続けるうちに屋敷内には3組みの家族が暮らしているらしいことが分かるが、男はサイードともう1人しか目撃されず、残った第三の男ビンラディンではなかろうかと推測を立てる。
上層部は推測では軍を動かせないと言って豪邸発見から100日以上経つが何のアクションも起こすことができない。
この辺りの政治的駆け引きというか、現場上層部の間の攻防はシンプルに分かりやすく描かれていたなぁと感心。
何もしないリスクについてどうお考えですか?ってセリフのパンチ力よ!

エリア51豪邸強襲作戦に使用する最新鋭ステルス・ヘリを見学にきた米海軍特殊部隊SEALsの面々とマヤ
↑この説明は少しシュールに感じるけど、マジでそういうシーンがあるので‥‥。
マヤは豪邸に爆弾の一つでも落としてしまえと思っているらしいが、上層部は果たして本当にアルカイダに関係ある建物なのか不確定な上パキスタンとの関係悪化も懸念しSEALsを送り込むことにしたようだ。
130日以上の上層部の説得の甲斐あって、やっと長官が大統領に話を上げてくれる。
このときのCIA長官とマヤの食堂での会話も印象的で、マヤに「ビンラディンの件以外にどんな業績がある?」とCIAでの活動実績を尋ねられて何も。これだけです。と長官の目をまっすぐ見て言う潔さに惚れてしまう!

そして2011年5月1日、長年にわたるマヤの執念が遂に実を結びます。
パキスタンとの国境付近にあるアフガニスタン・ジャララバード前進作戦基地にSEALsと共に待機しているマヤの元にとうとう作戦決行許可が出ます。
ネプチューン・スピア作戦です。
ここから先はSEALsの豪邸襲撃からビンラディン殺害までの様子が丁寧に30分以上に渡って描かれます。
パキスタン政府への通達無しに決行され、深夜にステルスヘリで国境を越え標的を一気に襲撃します。
安直ですが「おお、なんかR6Sみたいだぁ‥‥」って思いながら観てましたw
しっかり緊張感をもって描かれるので、基地で作戦の成否を見守るマヤと同じ気分を観客に味わわせてくれます。

最後はビンラディンを銃殺するのですが、この報告を無線で受けたマヤの表情が(゚д゚)←まさにこんな感じ。
その後もすぐにパキスタン軍が駆けつけてくるということで急いで脱出。
ビンラディンの死体は基地に搬送され、マヤも作戦の成功を自身の目で確認し深く安堵のため息をつく。
作戦成功をうけてのSEALs隊員の盛り上がりに相反したマヤのこの反応は、足掛け10年近くビンラディンを追っていたマヤの想いが如実に表れているように感じられて、観ている側としても「やったぜぇ!」って気分よりはマヤと同じくため息をつくしかない感じでした。

無事任務を終えて貸切状態輸送機で帰国の途につくマヤ。
パイロットがタクシーの運ちゃんのノリで「んで、どこに行く?」とマヤに問いかける。
この問いに対して無言で静かにをこぼすマヤ。
ジェシカの死に対しても涙を流さなかった女性が劇中唯一涙を流す。
しかし観客に対してのお涙頂戴という感じでワンワン大声を出して泣いたりせず、本当に静かに不意に零れてしまうといった感じ。
この問いかけはビンラディン追跡に人生の大半を費やした彼女にとって別な響きを持って聞こえたのだろうと思わせられる。
それと同時に我々観客に対してもこの先世界は何処へ向かうのだろうか?というメッセージを送っているのでしょう。

2017年の現在でもシリア北朝鮮を始めとして戦争の火種が世界各国で燻ぶっている。
やられたら、やり返す。
こんな追いかけっこをいつまでも続けていて良いのだろうか?
エンドロールを眺めながら暗澹たる気持ちにさせられつつ、観た人同士でこの映画を通して色々語りたくなるような良作でした。

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