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ホラー?SF?寓話?評論?『ポオ小説全集1』感想

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エドガー・アラン・ポーを初めて真面目に読みました。
本作を手に取るまでは精々が「江戸川乱歩の名前のネタ元でしょ」ぐらいの認識で、本作には収録されてませんが短編の『黒猫』だけ青空文庫でサラッと読んだことがあるくらい。
なんとなくホラー作家のご先祖様的な感じかなぁ~って思っていました。
実際にはホラーという枠組みに留まらない幅広い作風を持った作家であることが分かり、ホントもう‥‥お見逸れ致しましたぁッ!!

創元推理文庫から全部で4巻出版されている「ポオ小説全集」の1巻目を読んだだけですし、詩集の方にも手を付けていないビギナーではありますが、個人的に読んで感じたポオの魅力をお伝えできればなぁと思います。
まずはポーという作家の略歴から私自身の備忘録も兼ねて確認していきましょう。

1809年1月19日ー1849年10月7日没。

もうこの時点で個人的な驚き、勝手に20世紀前後の作家なのかぁと思ってました、すいません。
想定よりも100年近く前の作家だったとは‥‥この事実を知った後でも19世紀初頭にこれほど現代でも通用するような作品を書いていたということに驚きを隠せません。
現在進行形で産み出されている作品群の中にどれだけこういった【世代を超えて人心に訴えるような作品】があるのかと思うと‥‥、ねぇ?

マサチューセッツ州ボストンで生まれたポー。
両親を若くに失い商人アラン家に引き取られ、幼児期はロンドンで過ごす。
帰国後17歳でヴァージニア大学に進学し優秀な学業成績を修めるが、失恋を経て賭博や酒に溺れてしまう。
その後年齢を偽って陸軍に入隊するが5年後除隊、改めて陸軍士官学校に入学するが色々あって義父から勘当された上に軍法会議にかけられて退学処分‥‥!?
文筆で身を立てるべく創作活動に打ち込んだ彼は『アッシャー家の崩壊』や『黒猫』といった恐怖小説、初の推理小説と言われる『モルグ街の殺人』を始め多数の短編作品を発表。
自身で雑誌を立ち上げることに意欲を燃やした彼でしたがあまり上手くいくことは無かったようで金策に苦しむようになる。
1849年、酒場で泥酔状態の所を旧知の文学者に発見され病院に担ぎ込まれるが4日間危篤状態が続いたのち、10月7日早朝5時に死亡。

超ザックリと纏めたので輪をかけて波乱万丈に見えますが詳細はwikiとか参照してください。
おそらくこの『ポオ小説全集』は収録作を見るに彼の作品を発表時期順に収録していると思われますので、今回読んだ1巻目はポオが小説家として駆け出しの頃の作品になるのでしょう。

しかし収録1作目の「壜のなかの手記」からもう完成度が以上に高く、むしろ練達している感すらある見事な筆致で読み手をグイグイと物語に引き込んできます。
巻末の発表年月を信じるなら彼が本作を認めたのは24歳の頃‥‥
ど、どんな24歳だよッ!
まぁこれ以前から彼は詩作を通してその非凡な才覚を発揮していたようですが、それにしてもコレが処女作とか言われたら面喰ってしまいます。

壜のなかの手記」は東南アジアの列島群を出帆し南下していく貨物船に乗る主人公が遭難の末に幽霊船に囚われてしまう話なのですが、最初に読んだときは大変お恥ずかしながら「なんかラヴクラフトみたい」って思ってましたw
あとから知ったことですが、むしろラブクラフトこそ20世紀初頭の作家であり、ポーの作品から多大な影響を受けた作家なんですね。
いやもう、ホントすいません‥‥。
言い訳じゃ無いですが両方とも日本では創元推理文庫から出ていることもあってついつい連想してしまうのは致し方ないですよね!

1巻目で取り分け名高く知られているのは「アッシャー家の崩壊」でしょうか。
コレなんかも冒頭の流れはラブクラフトの「闇に囁くもの」に通づるような話運びで、狂気に憑かれた友人に誘われるように主人公の常識感も崩されていく過程の恐怖描写は正に出色の出来栄え。
もしかしたらポーは「アッシャー家」を書くにあたって同収録作の「リジイア」と「メッツェンガーシュタイン」の2作品をくっ付けるようなイメージで創作したのかなぁなんて妄想してみたりしましたが、さもありなん?
こんな妄想が楽しめるのも発表年月順で収録してくれてるからだと思います。
グッジョブ、創元推理文庫!

月への旅を描いた「ハンス・プファールの無類の冒険」はジュール・ヴェルヌ(『海底二万里』等)やH・G・ウェルズ(『タイム・マシン』等)といった後のSF作家にも影響を与えた元祖SFとの呼ばれもある作品。
作中でも言及されていたと思いますがシラノ・ド・ベルジュラックの『日月両世界旅行記』をかなり彷彿とさせる作品で、17世紀にシラノが描いた月世界旅行から2世紀の間で判明してきた科学技術を元にもう少しリアリティを補強するよう書き直した感じです。

本作巻末で解説を執筆された佐伯彰一氏によるとポーという作家はパロディストとしての面が非常に強く、過去作を参照し組み合わせ掛け合わせで物語を創造してしたそうです。
0から1を産み出すような手法に拘らず、むしろ堂々と大胆にアイディアを借用引用していった作家だったらしい。
アメリカの評論家をして「ポオは発明せず、借用し、再生させた。彼はあらゆる機会に借用している」とまで言わしめるほど、読む人が読めば多くの作品に元ネタが読み取れてしまうそうです。
残念ながら私はそこまで文学史に精通していないのでよくわかりません。
この世のどんな作品も元を辿ろうと思えば幾らでも辿れると思いますし、意識的にせよ無意識的にせよ、そういった先達の作品の上に今ある作品が作られているのだろうと思います。
そういった意味ではポオという作家は当代におけるタランティーノ的な色合いの作家だったのかもしれませんね。

本作トリ前を務める「ウィリアム・ウィルソン」は上記のポオの生い立ちを見てみると、一部ポオ自身を投影したような、私小説的な趣もある短編。
主人公と瓜二つな男が事あるごとに現れては主人公の邪魔をして追い詰めていく。
20世紀に入ってから体系立てられていく実存主義文学を先行するような内容で、ポオという作家のジャンルに囚われない柔軟で奔放な作家性に惚れ惚れとしてしまいます。

本作中唯一の評論「メルツェルの将棋指し」は実物の【The Turk】がYoutubeで見れるのですが、当時の人々がこのカラクリに熱中していたというのは非常に面白く思います。
どう見ても人間入っとるやん!動き的に!
誰もがそう考えているし、オーナー自身もそれを否定しないがゆえに、俄然人々の興味を引いてしまう。
結末が自明でありながも何故か興味を惹かれる作品ってのが世の中にはいくつかありますが、おそらく本質的には同じメカニズムが働いていて、「原因」と「結果」の間にこそ大衆の興味を引く何かがあるのでしょう。

収録作品全てに一言言い添えて行きたいのは山々なのですが、切りがありませんのでこの辺で。
とりあえず今まで見くびって読んでこなかったのを後悔するぐらい自分の琴線に触れる作品ばかりで、時間は掛かるでしょうが続巻も読んでいきたいなぁと思わせられる一冊でした。
私と同じようにポオという作家をまともに読まず、何となくで知ったつもりになってる人!(‥‥いないかw
とりま‥‥是非読んで!

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