本感想

ループをかちぬくぞ!漫画『盆の国』感想

投稿日:2017年3月29日 更新日:

最近歳のせいか10巻も20巻も続くような漫画を追いかけ続ける気力が無くなってきている私です。
10代の頃は何十巻でも嬉々として夢中で追いかけ続けられたのにね‥‥。
ところで『はじめの一歩』は今どうなってます?宮田とやった?やってない?あっ‥‥ふーん‥‥(無関心)

とまぁそんなわけで単巻で終わるような短い作品を求めて色々探したりしていて、最近読んだのだと『百万畳ラビリンス』とか『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』なども凄く面白かったのですが、ふとした切っ掛けで、ぶっちゃけ大した期待もせず「何でもいいから漫画読みたいなぁ~」的な軽いノリで手に取った本書が予想外に面白かったのでご紹介します!

スケラッコ著『盆の国』

あらすじ
幼い頃から【おしょらいさん】と呼ばれるお盆の時期に帰ってきたご先祖様を見ることができる主人公【上田秋】は中学最後の夏休みに入る直前に友人の【ミサ】と喧嘩してしまい一人夏休みを持て余している。
送り火を明日に控えた終戦記念日8月15日、例年より遅くはあるが、特有の耳鳴りの合図と共に【おしょらいさん】が帰ってきて喜ぶ【秋】。
祖母も若い頃には見えたらしいが、今では【秋】以外に見える人はいないらしい。
祖母は【秋】に「【おしょらいさん】と必要以上に仲良くしてはいけない」「【おしょらいさん】が見えることを他人に言いふらさない」よう言い含めるが、【秋】はお盆のときだけじゃなくちょくちょく帰ってきてくれれば良いのにと思っている。
明日の送り火は【ミサ】と顔を合わせるかもしれず気まずいし、送り火が終われば【おしょらいさん】がまた見えなくなってしまうのは寂しい。
【秋】が「もうずっとお盆のままならええのに」と思って夜空を見上げると突然強風が吹きすさび、雲が禍々しく渦巻いて耳鳴りがし始める。
浴衣姿で白髪色白の男性が現れて、空に吸い込まれるように見入る【秋】の手を掴み引き留める。
男は驚いて逃げる【秋】に「これから何かおかしなことが起きても心配するな」と声をかける。
帰宅した【秋】はそんな出来事を不思議に思い返しながらも就寝、翌朝目が覚めるとテレビからは終戦記念日にまつわるニュースが流れ、今日が16日だと思っているのは【秋】だけで、【秋】以外の皆は今日が8月15日だと言う。
次の日も、その次の日も、その次の次の日も、日付は15日のまま。
毎日同じ日付だけれど、同じことが起こるわけじゃない。
「お盆」が延々と続く奇妙な世界を自分の夢の中の出来事なんじゃないかと思い始めた矢先、【秋】はあの晩腕を掴んだ男性【夏夫】と再会する。

夏は人を成長させると良く言われますが、本作はまさに「ひと夏の大冒険」を通して「少女」が一皮むけて成長するような、いわゆるジュブナイル物としてかなり完成度の高い仕上がりを見せています。
なんか細田守の映画みたい。ありそう。
夏のループものってとこから『時をかける少女』を連想してしまうのは致し方ないですが、本作はそれとは全然違ったループものの秀逸作です。
エンドレスエイト』?やめろ、そんなアニメは存在しない!
あとは森見登美彦っぽくもある。『ペンギンハイウェイ』の読後感にも近い感じでしょうか。

絵は非常にシンプルな線描で描かれており、人によっては絵柄で倦厭してしまうかもしれない。
いわゆる大衆受けしそうな少年漫画的な絵でもなければ、萌え絵でもないですからね。
ですが絵で尻込みせずに是非一度手に取って読んでほしい!
単巻で完結するからたとえ肌に合わなくとも時間の浪費にはならないし、つーか値段分はちゃんと面白いから!

世界がループしていることに気が付いているのは主人公だけという閉じた世界観にも感じられるのですが、そこが本作において非常にクレバーだなと感じた一要素です。
ちょっとセカイ系的な要素もありますのでそういった作品が好きな人にもオススメです。
こういう「周りで何か不思議なことが起こって右往左往する系」作品において展開上難しいのが、主人公が「世界の核心」に触れるかどうかだなぁと思っていて。
不思議な出来事の原因を突き止めて、その世界の在り方を問い直すような展開にするのか否ですが‥‥。
たとえばディザスター系ゾンビ物災害物の場合は「事態に右往左往する過程」が楽しいのであって、上記のような展開をしちゃうのは寧ろ無粋だったりするんですよね。それはそれで楽だなぁと思う一方、結構テンプレ展開になりがちなので難しいところですが。
しかしながら「世界の核心」に触れるような物語を描こうとすると「じゃあその世界では現状どうなっているのか」という社会情勢まで描かなければならなくなり風呂敷が凄く大きくなって面倒くさいケースが多い。たとえば浅野いにお『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』みたいな。
本作ではループしていることに気が付いているのが主人公だけなので、たとえ「世界の核心」に踏み込むような展開に持って行っても外側の世界がどうなっているのか描く必要無いのが「う、上手いなぁ~」と唸らされました。
あー‥‥この説明伝わってます?
伝わってないだろうなぁ~‥‥。
いや、まぁ、とりあえず面白いんだ、読めッ!

読み返すたびに物語の構成の上手さが色々見えてきて非常に面白いです。
舞台の「六堂町」というのも六道輪廻からの連想なのでしょうかね、常世と浮世の交わるような本作の舞台にピッタリの地名です。
夏夫に「オレのこと好きにならんといてな」と言われてたのに最後にはねー‥‥甘酸っぱいねぇ!!
主人公が「」って名前なのも最初のうちは「なんか季節の秋とごっちゃになるし紛らわしいネーミングやなぁ」なんて思ってましたが読み終わるとあぁなるほど、この名前がしっくりくる
今年の【おしょらいさん】が送り火の前日になってやっと見えたということから考えても、きっと来年は見えなくなってしまうのだろうなと感じつつ、それでも秋ちゃんは大丈夫だろうし、ミサっちともちゃんと仲直り出来るだろうなと感じさせるようなラストの締めの余韻!
もう本当に素晴らしい出来栄えの作品でした。

惜しむらくは作中の季節と同じ夏に読みたかった。
なので皆さんは是非夏に、今年のお盆に読んでくださいな、是非!
作者のスケラッコさんは現在トーチwebというサイトで新連載を開始されたそうです、そちらも期待ですね。

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