本感想

元祖ファム・ファタル文学『マノン・レスコー』感想

投稿日:2017年3月16日 更新日:

昨今の画一的な萌えコンテンツに食傷気味のあなた。
連綿と続いてきた人類による創作を今こそ遡り、いっそのこと古典をあたってみるのはいかがでしょうか。
ということで本日は18世紀フランスの作家アベ・プレヴォーによる名著『マノン・レスコー』を紹介したいと思います。
なにぶん読んでから月日が経ってしまっているので私も本棚から引っ張り出しページを捲りつつ物語のあらすじを纏めてみます。

17歳の青年デ・グリュは名家の出、アミアンの学校で模範生に推されるほどの優等生。
休暇を利用し田舎へ帰省した彼は親友のチベルジュと共に街を散策していた際、駅馬車から降りてきた美女マノン・レスコーに一目惚れしてしまう。
マノン曰く彼女の意に反し両親によって修道院へ送られる道中らしく、デ・グリュは彼女の窮状を救うべく共に駆け落ちすることを決意する。
マノンを修道院まで送り届ける監督役やデ・グリュを引き留めようとするチベルジュすらも欺き駆け落ちした二人はパリに家具付きの部屋を借り新婚生活を始める。
デ・グリュの貯金を切り崩し生活していたが、すぐに困窮することになり、デ・グリュは父親と和解し二人の結婚を認めてもらおうと提案する。
マノンはその提案に賛成せず、田舎の親戚に無心の手紙を送るから金の心配はしないで良いと言う。
日々の支払いは全てマノン任せだったデ・グリュはある日突然食卓が豪勢になりマノンも高価な装いをするようになったことに不安を抱く。
ある日所用で外出したデ・グリュは帰宅し戸をノックするが返事が無く戸外で2、3分も待たされてから女中に出迎えられる。
不審を抱いたデ・グリュが女中を問いただすと彼に隠れてマノンがB…氏という男と今しがた密会していたことを知る。
デ・グリュはマノンの不実を嘆き彼女に訳を問いただすが、そこにデ・グリュの父が遣わした従僕がやってきて彼は家に連れ戻されてしまう。
B…氏はマノンを我が物にする上で邪魔者のデ・グリュを排除しようと彼の居所を父に報せていたのだった。
おそらくマノンもB…氏と共謀したであろう事の真実を知り苦悩するデ・グリュは父によって実家にしばらく軟禁される。
親友チベルジュの助けもあり傷心も癒えた彼はマノンを忘れて神学校で勉学に励む。
2年の月日が流れ卒業試験の公開説教の日、突然面会にやってきたマノンと再会する。
彼女の裏切りをなじるデ・グリュに対し涙を流して許しを請うマノン。
しまいには許しを得られなければ自殺するとまで言って抱き付くマノンに絆されてしまったデ・グリュは神学校を抜け出して再び堕落への道を転がり落ちていく――

フランス文学に明るい鹿島茂氏は著書『悪女入門-ファム・ファタル恋愛論-』に於いてマノンを「健気を装う女」と評しております。
マノンがデ・グリュの卒業試験の場に突然現れる場面がまさにそうで、初めは無言で目を伏せ、身を震わせるばかりで実にしおらしく振る舞って見せるのです。
続く沈黙に耐えかねて零れた涙を隠そうとする辺りなんて小技が効いてますね。
たどたどしい口調で自身の不実を認めて詫びたマノンは次いでデ・グリュが2年もの間連絡の一つもくれなかったことを薄情ではないかと責めるのですが……全くもって「どの口が言うか」ですよ。
さすがのデ・グリュも混乱し「マノンのうそつき!」と彼女に怒りをぶつけますが、ここでマノンが涙を流しながらこう言うわけです――

「もしもあなたのお心を返していただけないなら、あたし、死ぬつもりなの」
「あなたのお心なしでは、あたし、とても生きていられない」

これを聞いたデ・グリュは先ほどの怒りはどこへやら、自身も涙を流しながら

「ぼくの心を取ってくれ。きみに捧げることのできるただ一つの残りものだ」

いつの世も男というのはよよよとしな垂れかかる女には滅法弱い生き物だということが良く分かりますね。

その後二人はパリ郊外のシャイヨーという寒村で暮らし始め、当座はマノンがB…氏から掠めた6万フランというまとまった生活費があると安心しておりましたが、そうは問屋が卸さない。
このときマノンは18歳の少女です。現代に当てはめても18歳の少女なんていうのは都会への憧れが強く、毎日を楽しく過ごしていくことに夢中で、まさに人生の花盛りなわけです。
始めのうちは馬車で郊外のシャイヨーから律儀にパリまで通っていたのですが、マノンが面倒くさいからパリにも家を借りようと言い始めるわけです。
最初は渋っていたデ・グリュも結局折れて、シャイヨーとパリを往復する生活が始まるのですが、デ・グリュがシャイヨーの家を空けている間にボヤ騒ぎが起き、金庫の中のお金が消えてしまうという事件が起きます。
デ・グリュは途方に暮れてしまいます。
なぜならマノンとは「金のあるうちこそ、忠実でもあり、私思いでもあろうが、いったん落ち目になると、彼女を信用してはならない」そんな女だからです。
思い出してください、先の裏切りもきっかけはデ・グリュの手元不如意だったんです。

「贅沢と快楽を私のために犠牲にするには、あまりにもそれらを愛していすぎる彼女であった。」

金に窮した彼はマノンの兄でパリで近衛兵をしているレスコーに相談に行きます。
こいつが粗野で礼儀知らずの悪い男なのですが、デ・グリュを地獄に引きずり込む悪魔がもう一匹増えてしまうんですね。(一匹目はもちろんマノン)
結局レスコーはデ・グリュにまともな解決策を授けてくれず、いよいよ打つ手の無くなったデ・グリュは藁にも縋る思いで親友のチベルジュへ借金のお願いをしにいくのです。
チベルジュはデ・グリュが放蕩の道を進んでいることを咎めながらも百ピストールの現金を自分名義で借金して渡してくれます。
鹿島氏曰く「この「親友を裏切る」という行為ですが、これを男にさせるぐらいでなくては真のファム・ファタルと呼ぶことはできません。」
当時の男にとって友情という物はお金よりも地位よりも名誉よりも大切なものだというのは『三銃士』を見てもわかることですね。
しかし百ピストール程度の金子じゃマノンの豪勢な浪費生活をそう長くは支えていられないんですね。
とうとうデ・グリュはレスコーの仲間と一緒にイカサマ賭博で稼ぐようにまで落ちぶれてしまうんです。
このことを通して親友だったチベルジュからは絶交を言い渡され落ち込むデ・グリュですが、マノンの愛撫一つでそんな悲しみは一瞬で忘れてしまいます。
その後、家を空けていた隙に雇っていた小間使いと使用人にまたしても財産を盗まれてしまうんですが、何回同じ失敗を繰り返すんだこの男はwって感じですよね。
デ・グリュがこの盗難事件を警察に届けるべく家を出た隙にレスコーはマノンに悪知恵を吹き込み、帰ってきたときには手紙一つ残してマノンは消えているんですが、この手紙の内容も酷いのなんの。

「パンなしで恋が語れるとお思いになって?」

あぁ、これだけ書いてもまだ全体の半分も進んでいないんですw
この後デ・グリュはムショのお世話になり、人殺しにも手を染め、マノンと一緒にアメリカに落ち流れていくという盛大な転落劇なのですが続きは是非皆さん自身で読んでください。
この話を一口にまとめるのは無理です!
鹿島氏の著書でも冒頭で詳しく述べられておりますが「ファム・ファタル」という言葉は字面では「運命の女」と読めますが、決して赤い糸で結ばれているようなロマンチックな女性では無いのです。
その魔性に魅入られたが最後、男を破滅に導く「命取りの女」なんですね。
ちなみにデュマ・フィスの名著『椿姫』では、競売にかけられるマルグリットの遺品の中にこの『マノン・レスコー』の上製本が登場しますね。
マルグリットという少女は「ファム・ファタル」であることを辞めたが故に破滅してしまうようなヒロインなのですが、それはまた別の機会にでも紹介してみます。

近年作られている物語にはこの手の刺激的なヒロインがいなくて少し物足りなく感じていたのでこういった本を紹介してみました。
なんかどの女の子キャラも主人公のことを想っていて、優しくて、甘やかしてくれるような、良い娘ちゃんばかりなんですよね。
それはそれで良さもあるのでしょうが……

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