本感想

読書感想 『パリ・世紀末パノラマ館』 鹿島茂

投稿日:2017年3月8日 更新日:

皆さんは鹿島茂という方をご存知でしょうか。
明治大学国際日本学部教授を務める傍ら、フランス史やフランス文学に関する評論や解説を中心に活躍されておられます。
個人的に昔から19世紀のフランス文学が大好物なのですが、読んでいるとやはりというか当然なのですが100年以上前のことですから今の社会常識や生活習慣とズレている考え方なんかも出てきて困惑することもあったのです。
こういった1世紀前のパラダイムをきちんと理解して作品への理解をより深いものにしたいなぁと国内の解説書を色々物色していたところ必ずと言って良いほどエンカウントするのがこの方、鹿島氏なのです。
それもそのはず、氏はフランス関連の書籍を中心に50冊以上は解説書・評論書を上梓されており、おそらく日本に於いては右に出る者はいないだろうフランス専門家なんです。
国内外に現存する膨大な資料を調べ上げ、単に事実を列挙するだけではなく、まるで見てきたかのように当時の空気感や生活の様子を伝えてくれる氏の著作は堅苦しい歴史書を読むのが苦手な私でも取っつき易く、いつも楽しく読ませて頂いてます。
私は氏の著作をまだ5~6冊しか読了していないニワカですが、直近で読み終えた一冊を紹介したいと思います。

『パリ・世紀末パノラマ館-エッフェル塔からチョコレートまで-』鹿島茂

本書は共同通信社や日経新聞を始め複数の媒体で別々に連載されていたコラムを一冊にまとめた物で、4章立てで構成されています。

第一章は「世紀末パノラマ館」と題打って19世紀パリに纏わる49の事物について写真や図版と共にわかりやすく解説してくれています。
「エッフェル塔」や「デパート」、「オリンピック」は他の解説書などでも扱われる鉄板ですが、「ミシン」「ゴミ容器」「氷」「殺菌牛乳」といった私たちの生活に通づるような身近なテーマも沢山扱われていたのが興味深かったです。
手元にある氏が監訳された「普及版 パリ歴史辞典」と合わせて、当時のパリジャンの暮らしぶりを知れる良い資料なので色々重宝しそうです。

第二章「橋上のユートピア」はセーヌに架かるいくつかの橋を描いた絵画と共に当時の政治や市井の様子など、絵画が描かれた背景を解説されています。
ゴーギャンがアマチュア時代に描いたという珍しく地味ぃな風景画なども紹介されていて面白かったです。

第三章「失われたパリを求めて」ではオスマン改造で取り壊されてしまった建物やモニュメントを絵画や文献を通して紹介してくれています。
叔父が有名すぎて(個人的に)あまり印象が無かったナポレオン3世についても詳しく解説してくれています。
糞尿やゴミで溢れていた当時のパリからスラムを撤去し大通りや鉄道を通し、上下水道も敷設した大規模な都市改造はオスマンではなくナポレオン3世が主導していたというのは初めて知りました。
ビスマルクにしてやられてだけの人じゃ無かったんだね。

第四章「快楽の共産主義」はサン・シモン主義とフーリエ主義という当時のフランスで起こった相対する二つの思想におけるユートピアの在り方を解説しております。
サン・シモン主義というのはあらゆる事物を「開発(エクスプロワタシオン)」することで「産業者による、産業者のための社会」を目指す思想。
前記のナポレオン3世がサン・シモン主義に傾倒していたというのもなるほど納得な意外と地に足の着いた印象の思想でした。
対称的にフーリエ主義の方は「情念引力」だの「ファランステール」といった奇抜なアイディア満載で、当時の彼のお弟子さんすら「やべぇよやべぇよ‥‥」と師の思想が公にならないよう秘匿したほど。
ただ一点、フーリエが「女性同性愛愛好癖」だったという所に関しては「いいですわゾ^~」と共感を覚えてしまった。

当然だが鹿島氏は当時のフランスを実際に目で見て肌で体感した世代ではないが、何故か19世紀フランスに対して謎のノスタルジーを感じるそうで、その感覚は私もなんとな~く分かるのです。
そんな言葉ではなかなか説明のつかない郷愁感が込められたタイトル「パノラマ」の名の如く、当時のパリにタイムスリップして360度見渡したような読了感。
これからバルザックやゾラの名著の世界に旅立つ際に必携の一冊となりそうです。

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